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ブルブルとユサユサ [ぶつぶつ]

この間、松原商店街の冷凍マグロが生と変わらないくらいの美味しさだと書いた。

ちょうど同じようなタイミングでNHKの日曜日朝にやっている「うまいっ!」という番組で、島根県海士町の牡蠣養殖で最新の冷凍技術を導入して財政破たん寸前の町が救われたという話があった。電磁波を使った冷凍技術だという。

多少理系の勉強をしてきた人なら分るが、電磁波をつかった料理の装置と言えば電子レンジだ。水の分子を電磁波で振動させる、すなわち、ゆさゆさ揺らすことで、物を加熱する。電磁波は、家の中でもラジオが聴けるように、条件によっては物の中まで入っていけるから、お茶碗のご飯も中心まで全体を素早く暖めることができる。難しいことは別にしても、エネルギーを与えて温めるのだから、まあ理解しやすいのだが、いったいどうやって電磁波で冷却するというのだろう。

ずっと気になっていたのだが、ひょんなことからそれがCAS技術(Cell Alive System)と呼ばれるもので、医療の分野でも広まってきたと知り、調べてみた。

なぜCell Alive Systemかというと、この技術では細胞を傷つけず生きたままの状態で冷凍し、長期保存できるからだ。まさに医療分野では画期的な技術だが、マグロや牡蠣でも同じことだ。通常の冷凍では食材の細胞が壊れて、解凍した時に旨みや栄養がドリップとして流れ出てしまうが、細胞が傷つけられなければ旨みも流れ出ず、解凍しても生と同じ味が楽しめる。

なぜ冷凍すると細胞が壊れてしまうのか。これは水が凍る時に体積膨張するからだ。

では、なぜ体積膨張するのか。それは雪の結晶が六角形であることと関係がある。水の分子は液体の時は隙間なく並んでいられるのだが、氷になる、すなわち結晶になる時には六角形になるのが一番安定で、そうなりたがる。何事にも適度があるように、水の分子は120度の角度で手を繋ぐのが一番好きなのだ。でも六角形になると真ん中に隙間を持ってしまうから、体積が大きくなる。

とまあ、ここまでは小学校でも教えてくれるのだが、では、なぜCAS技術では体積膨張しない氷が作れるのか。

これは過冷却という状態を作ることで実現しているらしい。

実は、水が凍る、すなわち結晶化する、その一番最初には結晶核なるものが必要なのだ。普通に冷やせば一番冷えた点でそれが簡単に発生するのだが、ここに適当な磁場、すなわち電磁波をあてると、ゆさゆさと揺さぶられてしまい、どの水の分子も横と手が繋げなくて、結晶核が作れなくなる。この状態で外からどんどん冷やすと、物の温度は0℃よりも下がってゆく。こうして冷凍させたいもの全体が十分に0℃以下に冷え切って、でも電磁波のおかげでゆさゆさと揺さぶられている状況では、物の中の水は氷にはなっていない冷たい水のまま。これが過冷却の状態だ。

そこで、ゆさゆさ揺すっていた電磁波を切るとどうなるか。

中のものは、本来なら凍結する0℃より十分に低い温度になっているから、全体が一瞬で氷になってしまう。その時の水の分子には、六角形にポジションを変える時間がなく、液体の時と同じ位置のままで凍結してしまうというわけだ。これだと水の分子の間に隙間ができないので、膨張することもなく、細胞膜は壊されない。

なるほどねぇ。

外からガンガン冷やされて、ぶるぶると固まろうとする水の分子は、ゆさゆさと揺さぶられて隣と手を繋げない。そのうち体が冷え切ってしまったところで、突然ゆさゆさがなくなって、動けなくなる。まさにフリーズだ。

水の分子にしてみると、自由を奪われて不本意な固まり方をさせられているのだろうが、細胞にとっては中が膨らんで破裂させられることもなくてハッピーというところだろう。

それにしても、こんな技術を考えだした人は、大したものだ。

もちろん医療面での貢献が大きいのだろうが、おかげさまで美味しいお刺身が食べられます。

 

氷結晶.jpg