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時計回りの話 [ぶつぶつ]

我が家では小学生に勉強を教えているのだが、家内によると、最近は「時計回り」という言葉が分からない子供が多いらしい。

確かに今は時刻を確認するのにスマホやテレビで済ます人が多いから、アナログ時計が家にない子供もいるだろう。デジタル表示だとパッと見てその時刻が数字で認識できるから、便利といえば便利だ。

世の中にデジタル時計が出回り始めたのは、カシオの腕時計が引き金だったように思う。1970年代だろう。それより以前はアナログ時計が普通だった。普段の生活の中で目にする時計は、秒針、分針、時針がぐるぐる回る時計だった。

アナログ時計を普段見慣れない子供にとっては、「時計回り」と言われても何のことか分からないのは当然だ。

でも、目盛りの付いた丸い円盤の上を針がぐるぐると回るアナログ時計には、時刻を示す以外に色々な要素が含まれていて、これを目にしないというのは、子供にとって大きな学習チャンスを失っていることになる。

まず一番目は、回転ということ。

これ、物理学的にはとても基本的な要素だ。モノの運動とは直線運動と回転運動で構成されていて、世の中の動くものはすべからく、移動か回転していることになる。回転という現象を一番身近で見せてくれるものが時計の針だ。赤ん坊をあやす回転メリーに始まり、小さな子供が興味を示す物に回転物が多いのは、我々が生きている空間の認識と何か関係があるのかもしれない。

次に、周期性ということ。

針は一周すると、また同じ数字のところを通る。10進法で言えば、1の位はゼロから9まで増え、その次は再びゼロに戻る。この同じことを繰り返せることが周期性で、これで永遠のものを限られた数字で示すことが出来る。周期性の概念はとても小学生には難しいが、同じところをぐるぐる回るという現象を認識するだけでも、その理解の下地になる。

三番目は、桁が上がるということ。

同じところをぐるぐると回りながら、なぜ昨日から今日、明日と永遠に進み続ける時間を表示することができるのか。それは60秒経つと1分になり、秒の単位はまたゼロから再スタートするからだ。同様に60分経つと1時間になり、12時間で半日になる。これが2回で1日だ。時計の針が一周するごとに秒から分へ、分から時へ、一桁繰り上げることで、その桁はまた同じことを繰り返すことができる。周期性とともに永遠に続くものを示すための必須アイテムだ。普段の我々の生活では10進法が使われるが、時間の場合はもっと複雑で、60進法と12進法が組み合わされている。こんな難しい概念でも、アナログ時計を通して感覚的に身につけることができる。

四番目には、時間の長さを視覚的な長さに置きかえられること。

誰でも無意識にやっているが、14時17分を示す時計をみて、15時まで「あとだいたい45分」というのは時計の1周の60分を4等分して15分、その3つ分で45分と、視覚的に計算している。数式で60-17=43なんて計算はしていない。時計の目盛りの弧の長さを見て、そこから時間の長さを認識できるのは、粗っぽいが至極便利な機能なのだ。時間の長さに目処をつけるというのは、デジタル時計だけを見ていると、大人でもひどく難しい。というか、間違えることが多い。

五番目は、冒頭の話にも繋がるが、回転の向きを表すことができること。

小学生にとって、右回転、左回転という言葉で回転方向を認識するのは難しい。いや、大人でも戸惑う人がいるかもしれない。なぜなら向きは相対的なものだからだ。見る方向によって回転する方向も反対になってしまう。最近ヒットした映画の「舟を編む」のCMで、「右」を説明するのに、「西を向いた時に北にあたる方向」というのがあった。なるほど「向き」というものは、そうした説明をしないと、なかなか正しく表現することが難しい。時計の場合、なぜか知らないが、右回りに針が進むと時間が進むように古くから世界中で統一されている。これで時計を見慣れた人なら、「時計回り」とは「右回り」と理解することができる。

もっとも、最後の要素は、「右回りに」と言えば良いだけなので、時計を知らない人でも困ることは少ないかもしれない。

ちょっと理屈っぽいけど、それは理系思考者の宿命です。

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